今も残っている明治の洋館「陸奥宗光の別邸」

画像:陸奥宗光別邸

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現存する都内最古の住宅用洋館のひとつ

東京都台東区根岸にある陸奥宗光別邸は、現存する都内最古の住宅用洋館のひとつです。
カミソリ大臣とも呼ばれた陸奥宗光は、天保から明治の時代にかけて活躍した日本の政治家です。
伊藤内閣の外務大臣として不平等条約の改正のため、尽力したことでも有名です。
最寄駅はJR鶯谷駅で、区立根岸小学校の近くに建っています。
陸奥宗光には北区西ヶ原にも住まいがありましたが、別邸として鶯谷の洋館を購入したのは明治16年のことです。

大阪に残されている泉布観は明治4年に落成したため、陸奥宗光別邸よりも歴史が古い建物です。
ただ、東京都内では陸奥宗光別邸が現存する明治の洋館の中では一番古いものとされています。
旧古河邸も陸奥宗光が当地を購入したのは明治20年代のことで、鶯谷の陸奥宗光別邸の方がはるかに歴史が古いことになります。

歴史的価値の高さにも関わらず陸奥宗光別邸は本宅の旧古河庭園のように観光名所にはなっていません。
ただ、陸奥宗光別邸は現代の建築物とは異なる独特の雰囲気を漂わせているため、明治時代の洋館を好む方の間でも大変人気がある建物です。
近所には昭和15年に建てられた木造三階建ての商店、酒井工務店もあり、古い建物が少なくありません。
ただ、明治時代に建てられ現在でも廃屋になっていない立派な洋館は希少な存在です。

鶯谷の駅近くは非常に庶民的な雰囲気の街ですが、駅近とは言え一歩奥に入るとこのような洋館が建っていることに驚かされるはずです。
目立つ看板のようなものはありませんが、駅からそう遠く離れていないので近くに寄った時は外観を眺めるために寄り道してみてはいかがでしょうか。

建物の正面一面がガラス窓

鶯谷の陸奥宗光別邸は、今から130年以上前に建てられた建物とは思えないほどモダンなデザインが採用されています。
少し離れたところからも、真っ白な外壁は大変目立つもので、ひとめを惹きます。
最大の特徴のひとつが、建物正面一面のガラス窓です。

現在でも正面一面をガラス窓にしている洋館はそう多くなく、見かけることはほとんどありません。
一階も二階も正面は一面ガラス窓に覆われ、茶色い屋根以外は白く塗られています。
バルコニーがある二階は20畳もの大広間があり、外国人外交官を招待しパーティーが開かれる日も多かったようです。
大広間には左右の幅が約5メートル、高さ2メートルもの巨大な鏡が壁に掛けられています。

木造二階建てで、中の階段の木製の手すりの端には陸奥家の紋である牡丹の彫りものがされていると伝えられています。
建築には重厚感のあるアメリカ産の松が使用されているそうです。
一階にはそれぞれ10畳は超える応接間と書斎がありますが、暖炉もあります。

正面の白い外壁は最近塗り直されたそうですが、裏手に回ると当時の古い姿がそのまま残されています。
壁は地の色がほぼ見えないほど枯れた蔦で覆われ、屋根の上の方まで蔦が隙間なく張り巡らされています。
裏から回ったら廃墟のように見えるかも知れません。
どちらの表情も魅力的で、古い洋館マニアを惹きつける雰囲気があります。

大きな洋館にしては珍しく、高い塀がないので建物全体を眺めることができます。
白いペンキを塗り直す前は正面も枯れた蔦に覆われている状態で、洋館らしい雰囲気は今ほどなかったようです。
いずれにしても補強されているとは言え、古い木造建築が現在まで立派に残っていることでも貴重な存在であることは間違いありません。

内観は見学不可

残念ながら、陸奥宗光別邸は観光地ではないので旧古河邸のように内観は見学することはできません。
管理のための警備員が外に立っていることもないので外観は自由に眺めることはできますが、内部に入ることは不可能です。
明治の時代、この家は当時の三井家から陸奥宗光に別邸として献上されたと伝えられていますが、1897年に陸奥宗光が亡くなったあとは実業家の長谷川武次郎が所有者になっています。

長谷川武次郎は日本の昔話を在留外国人に紹介するため、20冊もの多色木版私装本シリーズを出版した功績でも知られています。
和紙をちりめん紙に加工し、外国人へのおみやげものとして海外にも販売し、大成功をおさめたことでも有名です。

現在でも長谷川武次郎の子孫が建物を所有し、住居や仕事の場として活用しています。
今は西宮邸として、西宮版画店という画廊になっているため、一般公開はしていません。
一般の方の住まいなので、許可なく内部に入ると不法侵入になってしまうのでご注意下さい。

また、西宮邸自体普通の住宅街にあるので、外観を眺める際や写真を撮影する際は周りの迷惑にならないよう配慮しましょう。
マナーを守って見守ることも、貴重な建物を愛でる時には大切なことです。

今、西宮邸の当主となっているのは子孫の西宮雄作氏です。
西村氏は現在でも地元根岸でちりめん本の魅力を伝える講演会にも参加しています。
講演会などの活動は不定期に行われているので、毎年必ず開催されているかどうかは分かりません。
もし関心をお持ちの方は根岸のアートカルチャー情報をこまめにチェックすると貴重なお話を聞けるチャンスを逃さずに済みそうです。

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